Pose Method of Running ポーズ・ランニング

ランニングフォームを意識して走力を上げよう!

Pose Method of Runningのテキスト(英書)の要約や原文と対訳を紹介しながら、アメリカの人気ランニングフォーム理論について考察してみる

38 脚動作のエラーを修正する CORRECTING ERRORS IN LEGS' MOVEMENT

脚の動きを徹底的に検証してポーズランニングを完成させよう!

Pose Method of Running, Chapter38, p267-290, 要約と翻訳

 多くのランニングのエラーは不適切な脚運びが原因であるが、他にも体幹や腕の動かし方が問題点となっていることもあり得る。 どこの箇所のエラーであろうとも、ポーズメソッドの理解不足、もしくは走るときの感覚の捉え方が間違っていることが起因しているでしょう。後者の場合はタッピングドリルに戻って復習しましょう。至って単純なエクササイズであるが、地面に力まずに脚を落としているとテキストの指示通りに実践していると思っている一方、実際は筋力を使って地面を蹴っていることが多いのです。
 自分の走りを客観的に見てもらうだけでなく反復練習時にもトレーニングパートナーがいると助かります。もしタッピングドリルを正しく行えていなかったら指摘されることでしょう。しかし外見は適切に行ってはいるものの、その感覚がどういうものか捉えることができずに次々とドリルをこなしてしまうことも考えられます。そして自分ではポーズメソッドで走っていると思っているものの実際は間違っていることもあり得るのです。
 そこでポーズメソッドを段階的に学ぶのと同様に、順々にエラーを見つけ修正していくという段階が必要となるのです。なぜなら、いつ・どの段階であなたが真にポーズメソッドの神髄に触れることができるか分からないからなのです。

 脚動作のエラーは3区分に分けて修正していきます:脚が遅れてしまっているかどうか・脚を前方に振り出してしまっているかどうか・脚が地面と接している時間がどうか。

 脚が身体から遅れるのを防ぐドリル

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f:id:Tomo-Cruise:20170520072522p:plain 脚が身体の後方に遅れてしまう原因はいくつかあるものの、その全ては「あれをするな!」のカテゴリーに入る。あなたはただ単に脚を後方に残したまま受動的に着地する脚を伸ばしているかもしれない(Fig. 38.1)。または懸命に着地した脚を蹴り上げ、イラストのように足首を股関節と平行なラインの高さまで上げているかもしれない(Fig. 38.2)。

 「あれをするな!」だけでは修正するのに十分ではないだろう。基本に立ち返り次のポーズランニングの主要素を思い出してほしい。

1)支持脚が切り替わった瞬間に地面から引き上げるべし。
2)脚を引き上げるのにハムストリングスのみを使用するよう意識するべし-そして地面から引き上げたらその指令(ハムストリングス使用)をやめるべし。

3)足首が尻の下に来るように垂直に足を引き上げるべし。
4)脚を地面に押すようなことはせずに腿前部(大腿四頭筋)は弛緩させたままでいるべし。

 脚の後方残りエラーを修正するには、着地直後に素早く脚を引き上げることが重要であり、同時に膝関節を緩めて引き上げた脚を折りたたみ尻の下に持っていくのです。ハムストリングスの適正な使い方に意識を向けて上記の動作を行うのです。実際、ほとんどのこのセクションのポーズメソッド習得確認のドリル(反復練習)は、支持脚を地面から引き上げるハムストリングスの適正な使い方に向けたものなのです。
 習得確認ドリルに臨む時には、常に実際のランニングで使うポーズランニングの感覚を身につけるための練習だということを忘れないでほしい。ドリルは心拍数や最大酸素摂取量を鍛えるという身体的なトレーニングではなく、感覚を養うのが目的なのです。
 これらのドリルに鍛錬(トレーニング)を求めないでください。代わりに頭を解放して(先入観を捨てて)適切な技術での動作のビジュアル化に努めてください。

1)タッピングFoot Tapping : Fig.38.3)
 f:id:Tomo-Cruise:20170520073907p:plainそうです、このドリルは以前にも登場しました。しかし、思い出してください。ここで一旦、基本に立ち返ってみるのです。両脚を降ろしているランニングポーズのS型ポジション(重心は支持脚に乗せ、膝をやや曲げ)から遊脚を地面から引き上げ、再び地面にストンと落として戻す。毎回、遊脚が同じ場所(支持脚のすぐ横に)に落とせているかをしっかりと確認してください。足の配置を正確に行えているかがとても重要なのです。10~20回繰り返したら左右の脚を替えて同様に繰り返してください。

f:id:Tomo-Cruise:20170520074101p:plain2)支え付きのランニングポーズSupported Running Pose: Fig.38.4)
 椅子の背などを利用して体重を両腕で支えて脚をランニングポーズ状態にしてください。片方の脚を浮かせたままで、もう一方の脚を地面から上げ下げします。再度、脚を戻す位置が正確に同じ場所になっているか確認してください。脚の引き上げにはハムストリングス(裏腿)を使うこと(地面に脚が着いた瞬間にスイッチを入れること)。

 f:id:Tomo-Cruise:20170527072532p:plain3)ストレッチコードタッピングStretch Cord Tapping: Fig.38.5
 伸縮性のゴムの一方を片脚の踵上に取り付けて、もう一方を同じ側の手に固定します。コードを持つ手は尻の横付近に置いて、コードを付けていない脚はランニングポーズの支持脚で待機します。1)タッピングと同様にコードを付けた遊脚側を上げ下げしますが、ゴムの伸縮性を利用して引き上げを素早く行います。ゴムの伸縮性の力でどれだけ素早く脚を地面から引き上げることができるかの感覚をつかでほしいのです。そしてその感覚を思い出しながらランニングに臨んでほしいのです。その場で進まずに左右、10~20回反復してください。そして片脚にコードを装着したまま走ることにもトライしてください。はじめは30~100メートルから始め800メートル(この場合はややスピードを落として)。

f:id:Tomo-Cruise:20170524161431p:plain4)パートナーを後方に伴ってPartner Running Behing: Fig.38.6)
 ※この後、パートナーと共に行うドリルが続きますが、そのパートナー=コーチはポーズメソッドを習得しているのが前提でしょう
 パートナーに真後ろについてもらい、両肩に手を添えてもらって走ってみてください。そしてあなたの脚の動きに同調してもらいましょう。真後ろについてもらう走りの効果は、フレームコンセプトにおけるフレームの確認であり、足が後方に流れることを空間的に防ぐことである。50-100m行うとよい。

f:id:Tomo-Cruise:20170527073009p:plain5)前方にパートナーを伴って、ストレッチコード使用Partner Running In Front, with Stretch Cords: Fig.38.7)
 あなたとパートナーの両足首の同じ側にストレッチコードを繋ぎ、前方を走ってもらいます。パートナーにはテンポを上げてもらい、その際の脚を引き上げる速さを維持することを強制的に学びます。400m程度の距離までで練習します。本来のポーズ技術が自分で考えていたよりも違うものだとはっきりと分かる練習の一つです。

f:id:Tomo-Cruise:20170527073059p:plain6)並走、ストレッチコード使用Side by Side Running, with Stretch Cords: Fig.38.8)
 パートナーに並走してもらう際に隣り合う片側の足首にストレッチコードを繋ぎます。パートナーにテンポを上げてもらい脚の引き上げを同調させて、引き上げのピッチを学びます。400m程度の距離までで練習します。

f:id:Tomo-Cruise:20170527073202p:plain7)パートナーによる引き上げ操作Partner Controls Tension: Fig.38.9)
 両脚にストレッチコードを装着しパートナーに後方でそのコードを持って走ってもらいます。パートナーに後方から脚の動作を観察してもらいピッチをコントロールしてもらいます。200m程度まで緩急をつけて練習します。

f:id:Tomo-Cruise:20170527074315p:plain8)上り坂ランニングUphill Running:Fig.38.10)
 脚の引き上げに集中して行いましょう。決して脚を地面に押しつけてはいけません!ストライドは短めにピッチを上げてテンポよく走りましょう。緩やかな坂道から始めて様々な斜度の坂で試してみてください。

f:id:Tomo-Cruise:20170527202024p:plain9)階段ランニングStair Running: Fig.38.11)
 階段といっても、スタジアムみたいなところで練習するわけではありません。トレーニングではなく、反復練習(ドリル)として実践しましょう。1回、10-15段くらいから20段まででよいでしょう。階段から脚を引き上げる際、リズムを一定に保ちます。軽やかでリズミカルに階段を駆け上がりましょう。

 これらのドリルは20-30mの短距離で試してください。ドリルの意図するところは、あなたの既存のランニング技術とドリルの感覚との違いをその場で感じ取ることなのです。また、時にはドリルの様子を動画で撮ってスロー再生で分析することも役に立ちます。脚が垂直に引き上げられている適正技術と脚が後方に残っている適正でない技術との違いがはっきりと見て取れるでしょう。
 さらなる技術の改善には、遊脚の膝関節を柔軟に使うことが求められます。これにより脚を短く使うという効用があり、脚の振子動作を軽減させることにもなる。振子動作が短くなれば、その分、動作速度は速くなる。それに加え、脚を前に運ぶあらゆる動作を軽減させ筋肉の弛緩を促進させる働きもある。膝関節の柔軟性によって、余分な動作を軽減させて敏捷性を上げ、筋肉の緊張も和らげるのです。

ハムストリングスによる過度な引き上げ

 脚を後方に残してしまう他のエラーを診ていきましょう。次も動作を軽減させるという流れを引き継いでいます。それは過度な引き上げの問題です。脚が地面を離れた後にハムストリングスが引き上げを保持することから生じる問題です。ハムストリングスによる引き上げ時間が長いほど、脚が身体を追っている時間も長引きます。引き上げが続いている状態では、前方に振り出すことができません。それほど多くはありませんが、過度な引き上げが筋肉を傷め故障につながることもあります。
 この問題へ対応する特定のドリルはいくつかありますが、まずはハムストリングスが担う役割の適正なイメージを持たなければなりません。車のエンジン内のピストン内燃機関を思い浮かべてほしい。機関内では動作を長引かせるようなことは起きえない。その動作を一回の発火から始まる。その発火によってエネルギーが解き放たれてピストンロッドを動かし車を前進させるのです。
 類推して考えれば、あなたの足が地面と接触する瞬間が、あなたのハムストリングスの発火のタイミングなのです。一回の素早いハムストリングスの収縮が、脚を地面から解き放ち、またその発火によって弛緩した脚を上方に動作させるのです。足が地面から離れる際のすべての動作はハムストリングによって行われているのです。脚自体は弛緩しており、慣性と勢いによって前方に動くのです。
 これまでのエクササイズの多くも過度な引き上げに対処できるが、このエラーに対しての特定の対処法もいくつかあります。

f:id:Tomo-Cruise:20170530054232p:plain1)パートナーに引っ張ってもらうPartner Pulling Forward: Fig.38.12)
 パートナーに前方を走ってもらう際にストレッチコードをあなたの足首に取り付けて引っ張ってもらいます。前方に引っ張られることによって、あなたの足首が尻の後方まで(骨盤の水平線を越して)上がってしまうことを防ぐのです。100mまで実践したら、コードを外して走ってみて。その効果を感覚を確かめてください。

f:id:Tomo-Cruise:20170530054131p:plain2)ストレッチコードを使用しその場で走るRunning In Place, with Stretch Cords: Fig.38.13)
 ここではストレッチコードを使用するがその場で脚の引上げを行います。支持脚の交替に集中し身体のバランスを維持します。感覚的な観点ですが、支持脚をもう一方の遊脚が落ちる前に、その遊脚のあった場所に持っていくことをここでの目的とします。もちろん実際には不可能です。しかし感覚的に試みることによって遊脚が自然と弛緩しソフトに着地するようになるのです。1セット、20-30回行います。

f:id:Tomo-Cruise:20170531051429p:plain3)ストレッチコードを頭上まで持ち上げて走るRun with Stretch Cords Overhead: Fig.38.14)
 少し変わったバリエーションではあるが、足首に装着した長めのストレッチコードを頭上持ち上げて走ります。これによって強制的に脚を尻の真下に垂直に持ち上げ、ハムストリングスの初期発火をより強調させます。少しの距離から試し、100mまでの練習にとどめます。

  再度確認しますが、これらのドリルはフリーランニング(何も身につけない普通のランニング)と共に実践してください。よりお勧めなのは、ドリルの前後にフォームの動画を撮ってもらいエラーが修正されているかを確認することだ。動画を検証する中で、ランニング中に感じていることと動画のイメージを同調させるよう努めるとよいでしょう。心の中にイメージを焼き付けるよう集中しましょう。その土台ができれば、いつでも適正なフォームでランニングに臨めるようになるでしょう。

 

空中でのエラー

 以前にも指摘したように、脚が空中にある間のエラーは動作を怠っていることに原因があることはなく、過度な動作に原因がある場合が多い。 遊脚が身体を通過するにあたって、あなたは大腿を前方・上方に動かしているか、地面に向けて強制的に降下させているか、または両方の動作を同時に行っているかでしょう。
 無理もないでしょう。我々の多くはランニングのイメージをこんな風に捉えていることが多いのですから:地面を蹴って推進力を生み出す。もちろん、ここまでテキストを読んだあなたはポーズメソッドの概念を学びランニングはつまり、身体に力を込めずに解き放ち重力(引力)を利用して推進力を生み出すことだと理解したことでしょう。しかし、ランニングフォームのように身体に染み付いた習慣化した動作はそんな簡単に変えることができないのも事実です。自分では筋肉を弛緩させて走っていると思っていても、実際は余分にエネルギーを使って推進力を生み出そうとし、おまけにそのせいでスピードが落ちているというランナーは存在します。
 f:id:Tomo-Cruise:20170601054238p:plain 大腿を引き上げることは、エネルギー浪費以上に無駄な動きです;遅い振り子のように上方半分に弧を描く動作です(Fig.38.15)。大腿を懸命にもがきながら上方に上げている最中に、身体は引力(重力)によって地面に降下し始めるのです。こうして高く持ち上げられた脚は、身体の降下とシンクロ(同調)して強制的に地面に叩きつけられるのです。実際、あなたが腿の力で推進力を得ようとすれば、おのずと地面を蹴ることにつながります。そして腿の上方動作は、脚の引上げ時だけ使用され、その時点では弛緩させるべきハムストリングスを無駄に働かせてしまうのです。結論として、腿を上げ過ぎるフォームは、地面を蹴飛ばしてしまうことによる身体への余計な衝撃に加え、本来の約2倍の労力をハムストリングスにかけてしまうことになるのです。
 腿によって推進してしまうエラーを修正する一連のドリルは、遊脚を前方に振り出すことを制限することが主となります。今までの修正ドリルと同様に、はじめは動作の制限を受け入れることに意識をもって実践し、その後にドリル中の身体感覚を得るよう努めてください。

f:id:Tomo-Cruise:20170601054449p:plain1)パートナーの後方を走るRunning Behind Partner: Fig.38.16)
 このドリルではパートナーの肩に手を置き共に走ります。そして腿が前方に振り上げられることを制限するのです。要するにパートナーがフレーム理論における枠の前方の壁の役割を果たすのです。もし腿を使って前進しようとすれば、すぐに脚がパートナーにぶつかってしまうでしょう。前面にバリアがあることで、脚を垂直方向に上げざるをえなくなります。パートナーの後ろを走りながら感覚にも意識を向けて100mまでの距離で実践してください。そしてパートナーを外し、覚えた感覚で思い出しながら走り、フォームを調整してください。

f:id:Tomo-Cruise:20170601054555p:plain2)後方で手を握って走るRunning With Arms Behind: Fig.38.17)
 動作を制限する意外にも効果的な方法は、単に両手を後ろで握り、そのままぶら下げるだけなのです。遊脚を前方に振り出すことを制限する以外にもいくつかの効用があるのです。もし肩をうねらせながら走る癖がある場合(これもエネルギー浪費)、後ろで手を握った状態ではその癖は矯正されます。また、接地時に足首を支点にして足で半円を描いてしまっている場合(踵から着地してつま先から離れる)、これも修正されるでしょう。後で手を握っている場合、つま先から離地することができなくなります。長距離走をしている最中のチェック作業にもこの方法は有効でしょう。一定の距離に達したら走りながら背後で手を握ってみて、ストライドや接地での感覚に変化があるのなら、走っているうちに過去の癖が出てしまっていると判断してよいでしょう。

 

着地時のエラー
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f:id:Tomo-Cruise:20170602060034p:plain 身体の真下に足を柔らかく接地させるという動作は単純に思えるだろうが、この動作のエラーによって様々な問題を引き起こしてしまっているランナーの何と多いことか。接地時のエラーはランニングによる故障の原因のかなりの割合を占める元凶となっている。このエラーとは具体的にはオーバーストライド=身体の前方での接地 である;脚を伸ばしての着地(Fig.38.18)、また踵での着地(Fig.38.19)。そして積極的着地=筋力を使って脚を地面に降下させることが挙げられる(Fig.38.20)。
 これらのエラーの修正の前に、なぜエラーであるのかの認識が必要です。仮にあなたが以前には適正なランニング技術とされてきた、踵から接地して、足をローリングさせて、最後につま先から離地することをいまだに少しでも信じ込んでいるのであれば、母指球での接地は無理なことでありポーズメソッドで走ることもできないでしょう。
 踵着地についてもう少し詳しく見てみましょう。踵着地はまず、脚が身体の前方にあることが前提となります。ここに多くの人が走ることが何であるかを勘違いしてしまう原因があるのです。脚を前方に振り出すことにより身体を前進させることが自然だと思ってしまうのです。技術的観点で検証する前に、裸足でアスファルトの上を踵着地で走ってみればわかります、それがいかに狂気の沙汰なのかが。
 もしあなたが先入観なくアスファルトを裸足で走らざるを得ない状況になったのであれば、自然に足前部での接地をしていることに気付くでしょう。なぜならそれが衝撃を和らげることを身体は知っているからです。参考に、1960年にローマオリンピックで優勝したエチオピアアベベ・ビキラ選手のビンテージものの映像を観てほしい。安心してください、彼は踵から着地していませんから。彼の偉業(裸足でマラソン優勝)を遠い昔の話だからと侮ってはいけません。タイムは当時の世界記録である2時間15分16秒であり、さらに彼はゴール直後のコメントで、同じペースでもう1回走ることもできると豪語するほどダメージを受けていないのだ。
 f:id:Tomo-Cruise:20170602060457p:plain 現在のクッションの効いたランニングシューズは不適正な着地での衝撃を和らげ、適正な着地技術が自然と身に着くのを阻んでいるといえる。踵着地は足が地面に張り付いている時間を伸ばしているのです(Fig.38.21)。そしてピッチを遅め、推進力を奪い、関節・靭帯・腱への負担を増大させ、本来ランニングから得ることができる引力(重力)による自然エネルギーを帳消しにしてしまうのです。
 母指球付近の着地に対する適切な理解を得るために、次に挙げる簡単な概念を知ってもらいたい。着地時間が長ければ長いほど、ブレーキ作用が増し、推進力は失われる。言わずもがな、引力(重力)の力の効力もより失われてしまう。これを是正するには、ランニングフレーム内に収まっている脚を身体の真下に着地させ、足が地面と接地している時間を極力短くすることが必要となる。端的に言えば、接地時間を短くすることが速く走ることなのです。

f:id:Tomo-Cruise:20170609054529p:plain1)ポニーThe Pony : Fig.38.22)
 シンプルなドリルほど完璧にマスターすることが難しいといえる。ポニーは適切な技術の土台をつくるドリルだが、シンプルだからこそ完全に正しく行わないと意味がないと言える。行うときの注意点は、重心を片脚から片脚へ移す際、最小の力で、最小の動作幅で、前に進まず、完全なバランスを保つことだ。
 バランスを保つのに、片脚の母指球ともう一方の片脚の地面に触れるか触れないかのつま先を接地点として使います。重心を素早く替えて、左右の足の接地点も交替します。はじめは重心の交替を一回ずつオーバーに行い、左右交替する前にポーズ(合間)を入れて、完全にバランスを保っているか、脚は身体の真下に着地しているかなどを確認します。ドリルに慣れてきたら30秒くらい連続して行いましょう。

f:id:Tomo-Cruise:20170609054737p:plain2)ストレッチコードの両端を腰と足に (Cords Around Waist, Tied To Foot: Fig.38.23)
 ストレッチコードの一端を腰に巻き付け(もしくはベルトに結び付け)、もう一端を足に結び付けてドリルを行います。コードが脚をガイドする役割を果たすのです。コードに反発力によって足は真上に上がり、また戻すにはコードの抵抗の少ない身体の真下への軌道を取ることでしょう。
 コードをこのように取り付けた状態で前出のドリルや色々な練習に臨んでみてください。タッピング、ポニーまたはトレイルランニングに至るまで。コードによる垂直な脚の引上げにより、自動的に足は適切な位置(身体の真下)に着地することでしょう。

f:id:Tomo-Cruise:20170609054832p:plain3)芝生上での裸足ランニング (Barefoot Running on Soft Grass: Fig.38.24)
 裸足になって芝生の上を少し早歩きしてみましょう。踵着地と比べて足前部(フォアフット)着地の感覚がよくわかると思います。約30mの距離を早歩きを1セットとします。
 裸足ランニングによるフォアフット着地を身に着ける過程の初期に、ふくらはぎの筋肉痛が発生することがあります。これはよくあることであり、気にすることはありません。数週間経てば身体が新たなランニングフォームに適応してきて筋肉痛は発生しなくなるでしょう。あるポーズメソッドの修得者は「ポーズメソッドで走り始めた時に、ふくらはぎの筋肉痛が時々気になったが、以前苦しんでいた膝や腰の痛みは無くなりました。」と言っている。

f:id:Tomo-Cruise:20170610201901p:plain4)砂上での裸足ランニング (Brefoot Running on Soft Sand: Fig.38.25)
 芝生上でのランニングに近いドリルであるが、砂上でのランニングにはさらにいくつかの恩恵がある。ローテクではあるが、あなたのランニングストライドを分析する有効な手段なのです。まず50mほど砂上を走ってみて、その足跡を戻って観察してみましょう。今だ踵着地をしていたのなら、足跡をみればすぐに判明するでしょう。次にチェックするのは足跡の深さです。支持脚が砂上と接する時間が長いほど、沈み込みも大きくなります。また地面を蹴飛ばしている着地をしている場合も足跡は大きく沈み込んでいることでしょう。足跡が浅くなるようにフォアフット着地で軽やかな走りができるまで練習しましょう。

f:id:Tomo-Cruise:20170610202011p:plain5)クリスクロスランニング (Criss-cross Running: Fig.38.26)
 前出ではあるが、このドリルはフォアフット着地の動作を強化するにはうってうつけです。まず片側に傾くことから始め、次に素早くクロスステップを踏みます。踵着地と長い着地を封印する動作なのです。この動作を速めるには支持脚の交替を続けるしかないのです(ステップ幅を広げることでは動作を速められない)。

 これからの練習においては着地について次のことを念頭においてほしい。
a) 母指球付近で着地すること b) 尻の真下で着地しているか意識すること c) 着地時に膝が軽く曲がっていること d) 軽やかに力を抜いて着地すること

中間姿勢でのエラー修正

 f:id:Tomo-Cruise:20170612054423p:plain 毎回の着地のたびに完全なランニングポーズ姿勢(Fig.38.27)を維持できているでしょうか。外見の形だけではなく、感覚や意識も維持できていなくてはなりません。感覚的には、身体は弛緩(リラックス)して、バランスが取れており、弾力を備えていて、そしてフレーム内にコンパクトに収まっているかを確認します。意識的には、様々な部位に対するバラバラな働きかけが、一つの効率的な人体力学の操作装置へとまとまるように集中しているかを確認します。そして最大限の出力を生むために、最小限のエネルギー使用で済むように常に心がけましょう。最も細心の注意を払うべきは、単純な動作であるが、重心を片方の脚からもう一方へ出来る限り微妙な(わずかな)動きで移していく動きであり、その動作が推進力の抵抗とならないように心掛けなければならない。
 以上の概念を強化するドリルは、ランニングポーズを完成させるのに必要な微調整を施すことを目的としている。

f:id:Tomo-Cruise:20170612054639p:plain1)メディシンボール上でバランスをとる (Balancing on Medicine Ball: Fig.38.28)
 実にシンプルなドリルです。メディシンボールの上でランニングポーズ姿勢をとるだけです。足元のメディシンボールは転がりやすくはありませんが、身体にアンバランスがあれば(重心がずれると)容易に姿勢を乱します。もし姿勢を保つのに各部位の末端筋群を懸命に使っているのであれば、あなたのランニングポーズ姿勢はあなたが思っているほど軽くバランスが取れているとは言えないでしょう。ボール上で姿勢を楽にリラックスしてとれるようになるまでトライして、このドリルでポーズ姿勢をマスターしましょう。

f:id:Tomo-Cruise:20170612054757p:plain2)ランニングポーズ姿勢でホップする (Hops in Running Pose: Fig.38.29)
 ランニングポーズ姿勢で、その場で、もしくは若干前進しながら軽くホップ(飛び上がる)します。ホップという強勢を入れるのは、身体のリラックス状態とバランスの維持を覚えさせるためです。ある大きな障害物を飛び越えるのが目的ではありません。真の目的は、最小限の力と筋肉弾性を活用して、ハムストリングスを素早く収縮させて支持脚(着地脚)を一瞬にして地面から抜くことなのです。

f:id:Tomo-Cruise:20170612054901p:plain3)縄跳びエクササイズ (Jump Rope Exercises: Fig.38.30)
 縄跳びは、おおよそ必要最小限の力を適応させるうってつけのエクササイズでしょう。縄跳びの基本は、足の下にロープが通過するわずかの隙間を開けることです。高く飛んではいけません。単に支持脚を交替し、身体のバネを活用してわずかな隙間をつくるのです。また、踵ではなく母指球付近で着地することも忘れてはいけません。

 これらのドリルを実施した後には必ず少し走ってみて、各ドリルで得た感覚を実際のランニングに取り組むよう心がけてください。常にランニングポーズ姿勢をとること、力まずに素早く脚を交替させることを意識してください。

離地時のエラー

 足が地面から離れる(離地)場面が最後にくるなんて変だと思っていませんか?様々なランニングの解説書では、離地時のノウハウについて割いてあるページが多く、前へ進むために「押す(push)」とか「駆動させる(drive)」などの用語が目立っている。テキストをここまで読み進めてきた読者ならお分かりだと思うが、私からのアドバイス「何もするな(don't do it)」だ。
 身体を前進させねばと考える代わりに、どの力がより大きく普遍的なものかを考えるように切り口を変えてみよう、個人の筋力か・引力(重力)かを。もう少し具体的に、急勾配の下り坂を駆け下りていく場合を考えてみよう。マラソン経験者なら分かる通り、ここでの問題は速く走ることではなく、速度が出過ぎてしまうことだ。どのようにしてスピードをコントロールするかが課題となります。
 ポーズメソッドの全体的な概念は重力を開放することであり、平地で効果を発揮するものだ。支持脚を身体の下から抜き重力に動作を委ねるのです。坂道で勢いがついていた時と同じようにするのです。重力に逆らういかなる動作も速度を落とすことにつながるのです。「離地」に内在する概念が、重力に逆らうことなのです。地面を足で押すということは実質的に重力に逆らっていることになるのです。そうしてはいけないのです。
f:id:Tomo-Cruise:20170614052404p:plain脚を伸ばすな。つま先から離地するな。地面を蹴るな=押すなFig.38.31)。
 ここでひとつ、平地でどのように以上のことが機能しているのか類推してみよう。オートバイに1本のストレッチコードで繋がれていると想像してください(Fig.38.32)。
 f:id:Tomo-Cruise:20170614052620p:plainバイクの生み出す力が坂道を駆け下りる状況をつくります。もしあなたが脚を伸ばしつま先から地面を押し出してついて行こうとするならば、身体が跳ね上げられ、それを吸収しようと全骨格に衝撃を受けて、挙句の果ては顔面から突っ伏すことになるでしょう。しかし、もしあなたが脚を地面から単に抜いて、支持脚の交替を素早くできるのであれば、スピードについていくことができるし、姿勢も崩さないでいられるかもしれない。バイクの力を重力に置き換えることができれば、この類推による感覚を獲得できたと言ってよいでしょう。やるべきことは、弛緩状態をキープして重力(引力)に身を任せることなのです。それがポーズメソッドなのです。
 離地時のエラー修正にはどのドリルが向いているか?答えは全てです。この章で紹介したドリルは全て、脚を地面から抜き重力を開放するにあたって、弛緩状態や柔軟な姿勢の維持を促進させるのです。これ以上に効率的なことは有り得ないのです。

 

 


 

37 エラーの認識と修正 RECOGNIZING & CORRECTING ERRORS

練習時やレースでの痛み・故障はフォーム見直しの兆候だ!

Pose Method of Running, Chapter 37, p261-265, 要約、一部本文と対訳

  このセクション(第6節)では多くのランナーが起こしてしまうエラーを予想し、それらを修正すべく特定のドリルを処方をしていきます。もちろん、エラーは修正する以前に認識され、分析され、理解されなければなりません。エラーの一般的定義は、その基準や正しい姿からの逸脱です。もし、ランニングフォームが人それぞれに違って当然だという説に則れば、エラーを認識すること自体が不可能だと言えます。
 f:id:Tomo-Cruise:20170513055935p:plain しかしポーズメソッドではランニング技術の正しい基準をはっきりと定義しているので、ランニングフォームを分析する手段を講じることができるし、エラーを見つけて修正することができるのです。ポーズメソッドの主な構成要素は次のようにまとめることができます。

1)ランニングポーズ基本姿勢を利用する
両膝は常にやや曲げられており、横からはS字のようなスプリング姿勢を維持し支持脚は母指球で地面と接している

2)前傾姿勢自重落下する

3)筋力弾性を利用する

4)支持脚を地面から直線起動で引き上げる

5)脚の引き上げにハムストリング(裏腿)を使う

6)ランニングフレーム内に身体をおさめる

7)筋肉の弛緩を維持する

  仮にこれらの原則に則っていれば、そのランニングフォームはバランスが取れており、身体の各パーツが体幹と調和した動きとなていることが客観的に見て分かるはずである。正しく走れていれば、腕や脚の激しい動きと体幹の前進移動がぎこちなくなるような逸脱は起きないだろう。
 f:id:Tomo-Cruise:20170513060308p:plain逆に間違った走り方をしていれば、その逸脱さは時に微妙ではあるが結構目立って現れるでしょう。丹念に磨き上げた乗り物に見えるところが故障車のように見えたり、一体化した物体が道を移動するように見えるはずがバラバラに動く部分の集合体がよろめいているように見えたりするのです。例えると、同じ曲の楽譜を見ている演奏家たちが皆、指揮者を無視しており、演奏はしているものの一つの曲にはなっていないといえるでしょう。
 正しくポーズメソッドが実践できているかを感じ取るのは簡単なことではありません。ポーズメソッドの根本的概念を真に理解していたとしても、走っている時の感覚を自分で理解するのは困難だといえます。できれば、パートナーやコーチにフォームを客観的に観察してもらいポーズメソッドのフォームをチェックしてもらうのがよいでしょう。

Any hint of overuse injury should be a signal to recheck your style and correct emerging problems. In your old running style, an overuse injury might have indicated worn-out shoes, but with  proper Pose style that is much less likely to be the case. And certain specific injuries wil also tell you the cause. If, for example, you begin suffering from shin splints, you can be virtually certain that you are landing with your foot out in front of your body.

 走り込みによる故障・痛みが発生した時は、フォームを再確認し将来起こるであろう問題点を正す機会が訪れたと認識すべきです。従来の走り方においては、走り込みによる痛みの発生はシューズのインソールが擦り切れたサインなどであったかもしれませんが、適切なポーズメソッドによる走り方においてはそのようなケースはまれです。ある特定の部位の痛みは原因があるのです。例えば、シンスプリント(向こうずねの痛み)に苦しみ始めたのであれば、大抵は身体の前方で着地してしまっていることが原因と言ってよいでしょう。

  f:id:Tomo-Cruise:20170513060632p:plainランニング技術の問題点が判明した時は、原点に立ち返り、ポーズメソッドの力学を理解しているか、ポーズメソッドの適切なビジュアルイメージが思い描けているか、実践した時の感覚が適切であったのかを確認する必要があります。
 根本的概念を理解せずに、また適切なランニングの感覚を獲得せずに、ただ単に物理的にフォームを変化させて問題点を修正しようとしても、その問題点はきっと再発してしまうでしょう。問題点の修正は単なるその場しのぎの解決法では本質的な解決とはなりえません。ランニングに対しての包括的なアプローチを根本から再構成しなくてはいけません。基本から見直す必要があるのです。
 最後に、ほとんどの問題点への解答はシンプルであることを覚えていてもらいたい。「余計なことはするな!」である。問題点はおおよそ次のことが原因である場合が多い;力みすぎ・筋力に頼りすぎ。身体をリラックスさせて重力に仕事をさせるのです。
 

36 ランニングへの恐怖感を克服する OVERCOMING THE FEAR OF RUNNING

マラソンへの心的バリアを取り除いて記録に挑戦し続けよう!

Pose Method of Running, Chapter36, p247-258, 要約、一部本文と対訳

  ポーズメソッドランナーを目指してここまで段階的に勉強してきました。ランニングは実際、学び上達することができるスキルスポーツであるという大前提を受け入れるところから始まり、次にポーズメソッドの土台を形成するいくつもの概念を知的レベルで学び、それを新たなスタイルとして肉体的な段階に落とし込んできました。そしてこの節では強度調整の仕方を学び、その新スタイルを活用すべく身体を最適化してきました。
 ほぼ学ぶべきことは学び終えたと言ってよいでしょう。以前よりも走力は上がったはずです、しかも故障も減ったのではないでしょうか。残るは技術的訂正を最終章でチェックするだけです。あなたの目標が健康増進やファンランであれば、この章を飛ばして最終章に進んでください。ぜひ、ランニングを生涯スポーツとして楽しんでください。
 しかし、競争に勝ちたいという本能がまだ少しでも残っていて、自己記録を伸ばすべくレースに参加し続けようというスタンスであれば、挑戦は始まったばかりなのです。なり得るベストなランナーへの探求のスタートラインについたのです。ここまではランニングの仕組みの勉強でした、次はランナーになるための精神論も含めた勉強となるのです。
 ポーズメソッドの技術を習得するにあたり、はじめは当惑したり、強度トレーニングにひるんだりと内的な「こんなことをして走力があがるのか?」というささやきと戦ってきたことでしょう。この第5節の最後の章で、いわばテキスト中の最も重要な章ともいえるここで、最高のパフォーマンスを引き出す、技術・耐久性・それらと精神状態の共生関係について論じていきます。
 技術とスピード・耐久性の関係はそれほど複雑ではありません。ランニング技術が完璧になるほど次のことを促進させることになります:エネルギー浪費の削減・筋力のスムースで協調した動き・筋力弛緩・関節、靭帯、腱への衝撃減退。逆に技術が身についていないと次のことを引き起こしてしまうでしょう:無駄な動作・筋肉の張り・関節、結合組織への衝撃増加・それらからの複合的な影響としてエネルギーの浪費と故障リスクの顕在化。
 ランニング技術を完璧にマスターすることにより、ストライドから「跳ねる」動作を最小化させ、筋肉の弾力性を促進させて、ランニングエコノミー(燃費)が上がるのです:技術と耐久性は比例するのです。しかしながら、我々のパフォーマンスを阻害している他のものが存在するのです。驚くことなかれ、それは心の中に存在するのです!
 「健全なる精神は、健全なる身体に宿る」という格言は、健康な身体を持つ者は健全な魂を持つべきという意味合いがあるが、その逆もまた真といえる。健全な魂が欠如していれば、真に健康な身体を持っているとは言えないのです。
 ランニングでの精神状況は次の3つの段階で論じることができる:the mental(内的)、the psychological(心理的)、the sprirtual(精神的)。これら3つの段階が相互に影響しあいパフォーマンスの潜在能力を発揮させるのです(または発揮させない)。このランニングと精神状況の関連性を示す2つの例を紹介しましょう。
 

f:id:Tomo-Cruise:20170506060518j:plain 一つ目はマラトンの戦いでの有名なフィリッピデスの逸話です(フルマラソンの原型になったといわれる物語)。このギリシャ連合軍とペルシャ帝国軍との戦いにおいて、フィリッピデス(ギリシャ側)は飛脚として援軍要請にスパルタまで約230キロのトレイルを2日間で走破したというのです。ただし援軍はとても間に合わないという知らせを持ち帰ることにたったのですが…しかしギリシャの将軍はそれを知り、ペルシャ軍に奇襲を仕掛けて1/4の兵力にも関わらず見事に勝利したのです!そして将軍は勝利の知らせを心配しているアテネの人々に届けるよう、230キロ走破して間もないフィリッピデスに命じるのです(可哀そう)…そしてアテネまで約46キロ完走し(これがフルマラソンの原型)「勝ったぞ、喜べ!」と言ってその場で息を引きとったといいます。極論ですが、マラソンの原型をなった逸話が、ランニングの精神論を説明する一つなのです。いわゆる使命を受け、雑念の入る余地もなく、伝令を届けるために一心不乱に臨んだことで限界までパフォーマンスを引き出すことができたということの例なのです。
 二つ目は命には関わらないより一般的な話です。レースを何度も経験している人なら思い当たることだと思います。レース後に仲間と雑談しているときに「6キロ過ぎ、体調が最悪だったよ。」などと語ったことがないだろうか。しかし、レースのたびに自分自身には「次のレースは記録更新できそうだな、体調も調整したし。」などとも語りかけていたにもかかわらず記録を出そうと力んで、もがきながら走ってしまうとその努力に報われずに途中から失速してしまうものです。逆に気楽に走っているときこそ速く走れたりする。そうなのです。すべてが調和していて努力せずともパフォーマンスを発揮できる状態こそが目指すべき目標なのです。が、この状態に偶然でなく意識的に移行できるようになるには肉体的だけでなく内的、精神的なトレーニングが必要なのです。

 このテキストで第1章からここまで紹介されたきた個々の概念や身体の使い方や鍛え方は至って単純であるものの、それらをまとめて身に着けるのは簡単ではない。その第一歩はまさに内的なものと言える、これまでのスタイルを捨ててポーズメソッドを受け入れることを選択するということは。その次には肉体的な負担はまだ軽いが内的フィードバックは繰り返し必要となる段階です:着地は正しくできているか・脚を押し付けずにリラックスして落としているか・跳ねずに前進できているか…それぞれは単純な動作であるが同時にフィードバックするにはチェック項目が多く混乱でしょう。
 


 実際、ポーズメソッドの各構成要素を身につけるのは肉体的な領域よりも内的心的な領域の占める割合が多いでしょう。特に実践を伴う章からは精神的な疲労をより感じたことでしょう。身体に染みついた従来の走り方を脱して新たなフォームを身につけるための反復練習を普段のジョギングの替わりに行わなければならなかったのですから。
 すでにお気づきかもしれないが、ポーズメソッドは単に脚・腕や身体の力学的動作の集積以上のものなのです。複数の様相・側面から成る現象とでも言ったらよいでしょうか。その力学的側面の習得は、その理解度の深さと個人の意思の力が伴わなければ実践できないのです。
 あなたがオープンマインドで新たなことを受け入れる性格で決断力や集中力があれば比較的容易にポーズメソッドを身に着けやすいと言えます。が、常に疑りながら取り組んでいるのであれば、基本的テクニックでさえ身につけることは難しいでしょう。ゆえに肉体的なスキルを身につけるにはメンタルなエクササイズが根本的に必須となるのです。
 ポーズメソッドを身につける次の段階では実際に走りながらそのメンタル的技術を活用することが求められます。初期段階では、まだその走りの仕組みが自動操縦のように身についているとは言い難いと言えます。走行距離を伸ばしつつ集中力をもって身に着けていかなくてはならないでしょう。ここでも単にに肉体的な鍛錬によって身につくと勘違いせずに精神的な鍛錬であるという自覚が必要なのです。
 おおよそのランナーは、肉体的に消耗しきる以前に心的・心理的・精神的に疲弊してしまうと言ってよいでしょう。なぜ、そうなってしまうのでしょうか。何がランナーを実際に疲れ果てるもっと前にギブアップさせてしまうのでしょう。この章のタイトルがその問題解決のヒントなのです:ランニングへの恐怖感を克服することなのです!

Go back to the example where you might say to yourself, “I felt like sh-t from 4 miles on.” Why does this happen? The better question is more revealing, “Why did I train myself to make this happen.” Runners habitually underperform because they fear performing better. They build in their own obstacles and their disappointing performances are really nothing more than self-fulfilling prophecies. Why do you feel like sh-t after four miles? Because you wouldn’t have it any other way. That’s the bad news. The good news is that just as you have retrained yourself to increase your physical potential with the mechanics of the Pose Method, you can retrain your mind to overcome your self-created obstacles.

「6キロ過ぎ、体調が最悪だったよ。」とこぼしてしまう前述の例を再度考えてみよう。何故、そうなってしまうのだろうか?次のように言い換えれば分かりやすくなる。「何故、その距離で気分が悪くなるようなトレーニングをしてしまったのか?」ランナーはパフォーマンスが上がるのを恐れて、常に実力以下の力しか発揮しないのです。自ら障害物を設定し、自ら達成可能な予言によってパフォーマンスを下げるのです。6キロ過ぎに最低な気分になってしまうのは当たり前のことなのです。悪い知らせの次の良い知らせとしては、ポーズメソッドの手順にて再訓練し肉体的潜在能力を向上させたのと同様に、自ら設定した障害物を克服するべく精神力を再訓練することはできるのです。

Many of us like to use runs as a time to escape daily life, to think through problems, to get away from it all. In other words, when we run, we use our mental energy to deal with issues other than running. While this may be somewhat therapeutic, it won’t make you a better runner. Letting life’s problems weigh on your mind while you run is equivalent to carrying a 50-pound backpack and loading your arms up with logs. You just can’t run faster if you waste either physical or mental energy. If your objective truly is to become a better runner, you must set aside other time to think through your life so that you can approach your runs with a fresh and focused spirit.

ランナーの多くはランニングを日常逃避や嫌なことを忘れるためなど気分転換に活用しているでしょう。言い換えれば、走っている時にランニング以外のことに心的エネルギーを消費していると言ってよいでしょう。心の健康には良いかもしれませんが、走力は上がらないでしょう。ランニング中に様々な問題に心が囚われてしまうというのは、20キロ以上のバックパックを背負い丸太を抱えているような状態と同様なのです。肉体的だけでなく精神的にも浪費があれば、より速く走ることはできないのです。本当に走力を上げることが目標であるのなら、色んなことを考えるのは他の機会にして、走ることに精神を集中させて新鮮な気持ちでランニングに臨むべきなのです。

Another challenge for a runner is developing the ability to diagnose problems during a run and correct them. Failing to make the correct diagnosis can lead to the wrong “correction” and further erode your performance. A common problem among runners doing long runs is that they believe that fatigue had caused them to shorten their stride. The common diagnosis: increase muscular effort to bring the stride length back to where it was. The immediate result: increase heart rate, increased muscular tension, erosion of form and further diminished performance.

 ランナーにとってもう一つ訂正すべき点を挙げれば、走っている最中の問題点の診断・訂正の能力の改善でしょう。正しく自己診断ができていないことは、間違った「訂正」につながり、さらにパフォーマンスを損なわすことになるのです。距離走時のランナーのよくある間違いは、疲労がストライドを短くしてしまっていると勘違いしてしまうことです。その診断とは:ストライドをもとに戻すために一生懸命に筋力を動員すること。それによってもたらされるのは:心拍数上昇、筋肉緊張の増加、フォームの崩れ、そして更なるパフォーマンスの減退なのです。

The correct diagnosis is to increase the cadence, taking advantage of muscular elasticity and proper framing. This requires not increased physical effort but greater mental focus to re-direct the body to do what it does best, which is to take advantage of gravity to move forward. Remember, speed is a function of stride length multiplied by cadence. Studies have shown that even elite level runners will see their stride length reduced by as much as 20% during the course of a long race. However, speed can be maintained by increasing turnover. To do so requires conscious control not only to increase tempo but also to fight the temptation to actively attempt to increase stride length.

 ピッチを上げ、筋力弾性を活用しフレーム内で走るということが適切な診断から導き出されるべき対応です。これには肉体的な努力というよりは、重力を推進方向に利用するという身体の有効な使い方へ再び方向づけることに集中するという精神的努力が必要となります。速度=ストライド幅×ピッチという公式を思い出してください。エリートランナーでさえ長距離走においてストライドは2割の幅でしか減少しないことが調査の結果で明らかになっている。一方、速度はピッチを上げることによって維持できることが証明されている。ということは、速度を維持する秘訣はピッチを上げることを意識すると共にストライドを伸ばすという誘惑に惑わされないことにも意識することにあるのです。

  これまではランニングにおける心的な自制例を表層意識における抑制についてみてきました。これからは内面の奥深くでの表層意識深層意識が身体の抑制について微妙に拮抗している点についてみてみよう。現代に生きる人間といえども動物界の一部に属しており、野生の生存本能が深層には組み込まれている。よって外部の脅威を察知すれば身体を守り危険を避けるという手順を無意識に踏むことになるよう人間の器官は設計されている。 

f:id:Tomo-Cruise:20170506062118j:plain 長距離や負荷のあるランニングが身体に対する脅威として顕在化することがある。エネルギー浪費と関連して生理的・精神的な疲労により深層意識の奥深くから身体器官へ危険信号が発せられてしまうのだ。表層意識において尽力しようとすればするほど、身体は生命への脅威だと認識され何とかして抑制しようと無意識が働いてしまうことがある。その初期反応は意識上に現れる恐怖感ではなく、むしろ肉体的・感覚的なものであり、具体的には筋肉硬直化、熱を持った痛み、呼吸困難化、肋骨周辺の痙攣や心拍上昇などである。
 この時点では意識上において「前進、全速力」と指示だしを続けているものの、深層意識においては生命保護本能が働き、身体に真逆の指示を送り始めるのです。意識上ではその指示を無視していても、大体において深層意識が身体の器官に対して首を持ち上げ減速につながる動作への導くのです、ピッチを遅め、支持脚の着地時間を増やし、筋肉緊張を高め、体を後傾させ始め、前方に着地させ、フォームを崩し始めるのです;要するにあらゆる手段を用いてブレーキをかけ始めるのです。その上、さらに深層意識は不快感をも身体に送り始めるのです、「減速せよ、さもなくば調子を崩すぞ」と言わんばかりに。
 以上が長距離走における生存本能の障害であり、改善すべきポイントでもあります。事実、ここで起こっていることは生命を脅かせることではなく、単にそう解釈されてしまっているだけなのですから。その臨界点に到達するたびに深層意識が首を持ち上げ、それを繰り返すうちに身体に刷り込まれてしまうのです。そして表層意識までもが一定距離での減速を正当化することになるのです。
 深層意識が限界点を設定し始めると表層意識においてもそこが自分の限界点だと設定してしまうのです。これが6キロ過ぎに決まって不調になる原因なのです。臨界点に来る度にくどい言い訳をし続けて、結局何年も同じレベルに留まらせている根本原因なのです。
 「自分はエリートランナーじゃないし、ファンランで十分。」「スピードを出す必要なし。」「このコースは坂道が多いから。」「まだウォーミングアップだから。」これらは自らの怠慢を正当化する際限ない言い訳のほんの一例だ。先に述べたように、自分に限界を設定してトレーニングしている結果なのです。上達できないのは肉体的な問題であることはほとんどなく、精神的な問題であることがほとんどであることがわかったでしょう。
f:id:Tomo-Cruise:20170506064218j:plain しかしこの表層意識と深層意識のやり取りの中に解決の糸口があるのです。細胞を含めたあらゆるレベルの人間の器官は意識・無意識間(交感神経・副交感神経)の不断なる抑制・均衡のシステムが働いている。各器官はそれぞれの目的、必要性、本能や充足度を持っており、同じ器官がそれらの目的の達成を目指すので、意識・無意識間で拮抗することも起こり得る。一方が出れば、もう一方は引っこまなければいけなくなる。そして深層意識が勝ち表層意識まで支配してしまう…
 つまり表層意識のみで実力以上の走りを長時間試みると深層意識が打ち勝ち、警告を発してしまうということです。同じパターンを繰り返しても警告は鳴り止まないでしょう。深層意識も納得するようなゴールを表層意識でセットする必要があるのです。例えば現状で400mを75秒で繰り返しスプリントできているならば、いきなり60秒でのスプリントを試みると深層意識はパニックを起こして止めに入ってしまいますが、3-4か月かけて徐々に75秒から60秒に向上させていきながら信念を持って臨めば深層意識を納得させることができるでしょう。
 

f:id:Tomo-Cruise:20170506064808j:plainもちろん深層意識としての生存本能の働きが表層意識を無効にしつつ驚くべき強度や耐久性を発揮する場合もあります。猛犬の追いかけられて逃げ惑う場合などである。生命の危機を感じている限りはいつにもまして速く走っていることでしょう。「火事場の馬鹿力」「窮鼠猫を噛む」のことわざも同様に深層意識での生存本能が為せる技でしょう。
 幸いにも現代においては、そのような危機的状況に見舞われることはまれでしょう。ただ、我々の肉体的能力は表層意識のレベル以上の実力を持っていることは納得できるでしょう。我々の内にあるこの資源をいかに自発的に引き出すかが先に論じてきた課題なのです。
 f:id:Tomo-Cruise:20170506065355j:plain 技術・忍耐性・心理に関連する次の課題は、時間に関する考察です。我々の身体は実体として現在に囚われています。しかし心は過去に戻ったり、現在の問題とやり取りしたり、未来のことにふけったり自由自在に時間を行ったり来たりします。この時間を往来する心は、身体の働きと関係を断ち、ランニング効率に悪影響を及ぼすことがあるのです。
 長距離を走っている時によくある心の「逃避」先は未来でしょう。6キロ地点で身体の現状分析心をすっ飛ばして、心は42キロまでに何が起こるか考え始めゴールまでに如何に体調を維持するかを推測したりするのです。この未来予測によって精神は恐怖感を募らせて、身体の生理的・生体力学的側面が乱れ始めるのです。身体から脳へ避難信号が送られ、ストライドが乱れだり筋肉が痙攣を起こし始めます。
 身体トレーニングと同様に心的・心理的なトレーニングもランニングにとって重要なのは明らかでしょう。心を落ち着かせることができないと上記のように身体も反応してしまうのですから。包括的な鍛錬として精神的な領域に踏み込んでランニングに取り組む必要があるのです。
 前にも触れましたが、実力を出し切っている時はきつく感じることはあまりないのです。身体と精神を集中力をもって鍛錬すれば、実践時にはすべてがとても自然に感じるのです。 

f:id:Tomo-Cruise:20170506065917j:plain バスケットボールの選手で例えるなら、どんな位置や体制からでもシュートを決める絶好調の選手のようなものでしょう。このような選手の状態を「ゾーンに入った(in the zone)」と言います。どんなスポーツでもゾーンに入ると、身体と精神が完全に調和して自信がみなぎった状態になるのです。すべての動作が完璧で、完全な集中力をもって超絶技をこなすのです。実力を出し切れる・ゾーンに入るということは、身体が一連の鍛錬を経験し、技術が身についており、加えて完璧にメンタルコントロールができているという結果なのです。
 恐怖感は個人的な不安感の反映と言えます。未知のことや無知が感情の隙間を創り上げるのです。不安感を持ちながら走っているとその隙間が恐怖感を生み出します;負荷をかける、かけないことへの恐怖・怪我への恐怖・上達への恐怖・失敗への恐怖などを。
 幸いにもランニングへの恐怖感を克服すること時代はとても単純だと言えます。不安感から生じた感情の隙間を知識で埋めればよいのです。走り方を学び、エラーの認識方法を学び、そしてそれらのエラーをトレーニングやレースの最中に修正することを学ぶのです。肉体的な側面でランニング技術を習得していくのと同様にランニングへの恐怖感を克服することも習得することができるものなのです。
 あなたがポーズメソッドをランニングの自然体として身に着けた段階に達したのであれば、同時にランニングへの恐怖感を克服する基盤ができたと言えます。ランニングスタイルが洗練されていくと新たな自信が身につき、無自覚でもパフォーマンスに影響を与えていくのです。
 走り方を真に理解し、重力を推進力に変換するスタイルを身に着けたのであれば、ランニングがとても楽なことになっているはずです。そして周りのランナーたちの多くが走り方を真に理解していないことに気付くことでしょう。
 完全なランニング技術の仕組みと生理学的・精神学的能力の高い認識を持ち合わせることによって、あなたのランニングの実力レベルは新たなステージへと昇華します。ランニングを今までと同じスポーツと思えないくらいにランニングに対する観念が変化することもあるでしょう。開放された走りが可能となったのです;故障からの開放、猜疑心からの開放、そして恐怖感からの開放